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イヌのけいれん重責 2025.10.17

【病態】

けいれん重積(てんかん重積)とは、5分以上けいれんが止まらない、または短時間で連続して発作が起こり、意識が回復しない状態を指します。脳内での過剰な神経活動が持続することにより、脳の代謝が極端に亢進し、脳浮腫、体温上昇、低酸素、アシドーシスなどを引き起こします。放置すれば不可逆的な脳損傷や多臓器不全に進行する極めて危険な状態であり、緊急治療が必要です。発症原因は特発性てんかんの他、脳腫瘍、脳炎、外傷、低血糖、肝性脳症、中毒(チョコレート、キシリトールなど)など多岐にわたります。

【診断】

飼い主からの発作状況の聴取が診断の第一歩となります。持続時間、発作の種類(全身性または部分性)、意識状態を確認し、緊急性を判断します。血液検査では、低血糖、肝機能異常、電解質異常(ナトリウム・カルシウム)、腎不全、炎症マーカーを確認し、全身性疾患の有無を評価します。必要に応じて脳MRIや脳脊髄液検査を行い、脳炎や腫瘍性疾患の鑑別を行います。体温や酸素飽和度の測定も重要で、発作の持続により高体温や低酸素血症が進行している場合は迅速な対応が求められます。

【治療】

治療の目的は、まずけいれんを迅速に止めること、そして再発を防ぐことです。第一選択はジアゼパムまたはミダゾラムの静脈投与(または直腸・経鼻投与)で、これにより多くの症例で発作が沈静化します。発作が持続する場合には、フェノバルビタールやレベチラセタム、プロポフォール持続投与などを組み合わせた治療を行います。体温上昇や代謝性アシドーシスを是正するため、冷却や酸素吸入、輸液療法も同時に行います。原因が特定できた場合(例:低血糖や中毒)には、その原因の除去と補正が不可欠です。重度の症例ではICU管理下での鎮静とモニタリングが必要になることもあります。

【予後】

発作を迅速に抑えられた場合の予後は比較的良好ですが、30分以上けいれんが続いた症例では、死亡率が高くなります。脳の損傷が残った場合、運動障害や認知機能低下を後遺症として残すことがあります。原因疾患によっても大きく異なり、特発性てんかんであれば長期的な抗けいれん薬管理により生活の質を維持できますが、脳腫瘍や炎症性疾患が背景にある場合は再発率が高く、予後は慎重です。再発を防ぐためには、フェノバルビタールやイメピトインなどの抗てんかん薬を継続的に投与し、血中濃度を定期的に確認することが推奨されます。

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