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トリのセキセイインコ雛病 2025.10.18

【病態】

セキセイインコ雛病は、ポリオーマウイルス(Avian Polyomavirus)の感染によって引き起こされるウイルス性疾患です。特に雛や若鳥で発症率が高く、突然死を含む重篤な経過をたどることがあります。感染経路は、感染鳥の糞便、羽毛、唾液、卵などを介して広がり、同居鳥への伝播も容易です。

ポリオーマウイルスは細胞分裂の盛んな組織で増殖するため、免疫系、肝臓、腎臓、皮膚、羽毛などに障害を引き起こします。雛では食欲不振、膨羽、沈うつ、下痢、嘔吐などの症状が現れ、急速に全身状態が悪化します。羽毛がうまく生えそろわない、翼や尾羽が抜け落ちるといった「羽毛異常(フレンチモルト)」も特徴的な症状です。成鳥では感染しても症状を示さず、ウイルスを長期間排出するキャリアとなることが多いため、繁殖施設などでは特に注意が必要です。

【診断】

診断は、臨床症状とウイルス検査の結果を組み合わせて行います。外見上の特徴として、発育不良や羽毛の異常、肝腫大が確認されることがあります。X線検査では、肝臓や脾臓の腫大が見られることが多く、腹部全体の陰影が増すのが特徴です。血液検査では肝酵素の上昇や白血球数の変動がみられる場合があります。

確定診断には、糞便や羽毛、血液を用いたPCR検査によるウイルス遺伝子の検出が有効です。重度の症例や死亡個体では、病理検査によって肝臓や脾臓に出血性壊死が認められ、ウイルス性封入体が確認されることがあります。

【治療】

ポリオーマウイルス感染に対する特効薬は存在しないため、治療は支持療法が中心となります。脱水を防ぐための輸液、消化機能を助ける補助栄養、肝臓の負担を軽減するための肝保護剤などを使用し、体力の維持を図ります。食欲が低下している場合には、強制給餌や保温による体温管理も行います。

また、二次感染を防ぐために、清潔な飼育環境を保つことが重要です。感染力が強いため、発症個体は速やかに隔離し、同居鳥の健康状態を注意深く観察します。アルコールや次亜塩素酸ナトリウムによるケージや用具の消毒も有効です。

【予後】

セキセイインコ雛病の予後は、発症個体の年齢と免疫状態によって大きく異なります。雛や幼鳥では死亡率が非常に高く、発症から短期間で命を落とすことも少なくありません。一方、成鳥では軽度の羽毛異常や一時的な体調不良で済むこともありますが、ウイルスを保有し続けるキャリアとなるため、他の個体への感染源となる危険性があります。

予防のためには、感染歴のある鳥との接触を避け、新しく迎える個体については事前にウイルス検査を実施することが推奨されます。繁殖施設や多頭飼育環境では、衛生管理と検査体制を徹底することが最も重要です。ワクチンは一部の国では使用されていますが、日本では一般的ではなく、感染防止策の徹底が予防の基本となります。

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