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トリの甲状腺腫 2025.10.18

【病態】

甲状腺は代謝や換羽、成長、カルシウム代謝を調整する重要な内分泌器官であり、気管の両側に位置します。甲状腺腫とは、甲状腺組織が過形成または腫瘍化により腫大した状態を指します。原因の多くは慢性的なヨウ素欠乏により、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌が亢進し、結果として組織の過形成が進行することにあります。
アブラナ科野菜(キャベツ、ブロッコリー、カブなど)や大豆製品に含まれるゴイトロゲン(甲状腺腫誘発物質)もヨウ素利用を阻害し、同様のメカニズムで発症を助長します。
甲状腺が腫大すると、気管や食道を圧迫して呼吸困難、開口呼吸、嗄声、嚥下困難などの症状を呈します。また、甲状腺機能低下が生じると代謝が低下し、体重増加、活動性の低下、羽毛の退色や光沢低下がみられることがあります。腫瘍性変化を伴う場合は、悪性化して周囲組織に浸潤することもあります。

【診断】

臨床的には、頸部の腫脹や呼吸音の変化を契機に発見されることが多く、触診や聴診で異常が確認されます。画像診断としてX線検査や超音波検査を行い、気管や食道との位置関係、腫瘤の性状や大きさを評価します。
血液検査では、血中甲状腺ホルモン(T3・T4)を測定し、甲状腺機能の亢進または低下を確認します。悪性腫瘍の可能性がある場合は、細胞診や生検による病理学的評価を検討しますが、鳥類では麻酔や穿刺によるリスクが高いため慎重な判断が必要です。
また、食餌歴(特にヨウ素摂取量や与えている野菜の種類)を聴取することが、原因特定において重要です。

【治療】

軽度の症例では、ヨウ素の補給や甲状腺ホルモン製剤の投与により、ホルモンバランスを是正し腫大の進行を抑えることが可能です。食餌管理も重要で、ゴイトロゲンを含む食品の制限と、ヨウ素を適切に含む飼料への切り替えが推奨されます。
一方、腫瘤が大きく呼吸困難や摂食障害を引き起こす場合は、外科的切除を検討します。ただし、鳥類の甲状腺摘出術は高い麻酔リスクを伴うため、術前評価と熟練した外科管理が不可欠です。
また、悪性腫瘍が疑われる症例では、投薬のみでは制御困難なことが多く、進行抑制を目的とした緩和的治療が主体となります。

【予後】

ヨウ素欠乏や軽度の過形成が主因である場合、早期の内科的治療により症状の改善や進行抑制が期待できます。しかし、悪性化している場合や腫瘤が気管を強く圧迫している場合は、呼吸困難による突然死のリスクもあり、予後は不良です。
慢性経過をとる個体では、再発や甲状腺機能低下に伴う代謝異常を繰り返すことがあるため、定期的な画像検査と血液検査による経過観察が推奨されます。

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